睡眠時無呼吸症候群/SASとは
眠っている間に一時的に呼吸が止まってしまう病気
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に一時的に呼吸が止まってしまう病気です。
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)の頭文字をとってSASとよばれます。
この病気は、空気の通り道である気道が何らかの原因でふさがってしまうことが原因です。
呼吸が止まる(無呼吸)→ 苦しくなって目が覚める(中途覚醒)
このサイクルを、寝ている間に何度も繰り返します。
このため、呼吸障害(息ができない)と睡眠障害(良質な睡眠がとれない)という2つの重大な症状を併せもちます。
そして呼吸が止まる回数が多くなればなるほど、睡眠時無呼吸症候群は重症化していきます。
このように、睡眠と呼吸を阻害する睡眠時無呼吸症候群は、さまざまな病気を引き起こし、それぞれの病気をさらに悪化させます。
睡眠時無呼吸症候群/SASのタイプ
睡眠時無呼吸症候群は、発症の原因によって大きく3つのタイプに分類されます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)
上気道に十分な空気の通り道がなくなり、呼吸が止まってしまうタイプです。
首や喉周りの脂肪、アデノイド肥大、小さなあご、舌の付け根、鼻炎・鼻詰まり、軟口蓋など、さまざまな要因が挙げられます。
睡眠時無呼吸症候群と診断されるほとんどの方が、この閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。
中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS:Central Sleep Apnea Ayndrome)
脳の呼吸中枢の機能障害(脳から呼吸指令が出なくなる異常)によって呼吸が止まってしまうタイプです。
このタイプはわずか数%程度です。
混合性睡眠時無呼吸症候群(MSAS:Mixed Sleep Apnea Syndrome)
閉塞性と中枢性、両方の要因が複合的に認められます。
睡眠時無呼吸症候群の症状・合併症
代表的な症状は、いびき・頭痛・眠気の3つ
いびき
睡眠中の大きないびきと息が止まる無呼吸状態を一晩に繰り返すこの症状は、家族に指摘されて受診される方も多いです。
頭痛
十分な睡眠時間をとっているはずなのに、朝起きたときの激しい頭痛や倦怠感に襲われる場合があります。
眠気
日中の極度な眠気は、自覚症状としては一番多く、仕事や運転に支障をきたしてしまうケースが少なくありません。
しかし、単なる睡眠不足と見逃されてしまうことも多く、患者さん自身も自覚症状がない場合では、周囲の方も深刻な病気だとは考えづらい状況に陥ってしまうことが多いです。
睡眠時無呼吸症候群/SASの合併症リスク
睡眠と呼吸機能を阻害するこの病気の恐ろしさの1つに、合併症にあります。
呼吸障害と睡眠障害は、血液や血管や心臓をはじめ、脳、ホルモン分泌、自律神経・交感神経など、私たちが生きていくうえで重要な部分に大きな影響を与えます。そのため、睡眠時無呼吸症候群は合併症が多い病気です。
- 心臓疾患
- 脳疾患
- 腎臓疾患
- 認知症
- ADHD(注意欠陥 ・多層性障害)
- 不妊症
- ED
など
睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、脳卒中になるリスクは約4倍、高血圧症や慢性心不全は約2倍になることがわかっています。
睡眠時無呼吸症候群と心血管疾患(循環器系)の病気
睡眠時無呼吸症候群でもっとも多く引き起こされる合併症は、心臓や血管に関する循環器系の病気(心血管疾患)です。
睡眠中に睡眠時無呼吸症候群を発症すると、気道がふさがってしまうため身体の呼吸機能は必死に活動します。この動作によって、胸の中では一時的に圧力が下がり血圧が低下します。すると今度は交感神経が、急いで血圧を上げるために働きます。
これら一連の活動によって、胸の中の圧力は頻繁に変動し、心臓の肥大や不整脈、血圧の上昇などのトラブルが起こります。
睡眠時無呼吸症候群はこうして、心血管疾患に関する多くの病気を引き起こすのです。
特に睡眠時無呼吸症候群を合併している心不全患者さんでは、適切な治療をしないと死亡率が約2〜3倍高くなることがわかっています。
合併症となる心血管疾患
- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心不全
- 高血圧症
- 不整脈(心室期外収縮、徐脈、房室ブロック、心房細動)
睡眠時無呼吸症候群と高血圧症
睡眠時無呼吸症候群における高血圧の合併率は15〜50%です。
このように何らかの病気が原因で発症する高血圧を、二次性高血圧といいます。
睡眠時無呼吸症候群によって夜間に血圧が急激に上昇するこの二次性高血圧は、睡眠時無呼吸症候群が重症化するにつれて高血圧合併のリスクが高まることがわかっています。
無呼吸が起こった直後に、急激な血圧変動を繰り返します。
血管の機能障害、血液凝固などが起こり、心臓と結果には大きな負担となります。
睡眠時無呼吸症候群の適切な治療をすれば、高血圧の進行を軽減できます。
睡眠時無呼吸症候群による動脈硬化の悪化
睡眠時に低酸素状態が長く続き繰り返されると、血管内部の細胞が炎症を起こして、血管そのものが硬くなっていきます。
血管が硬くなり弾力がなくなってしまうことで、裂けたり破れたり内部が詰まりやすくなる病態を動脈硬化といいます。
動脈硬化の進行は、血管と繋がっているさまざまな臓器に重大な病気を招く危険因子です。
初期症状がほとんどないまま進行するため、身体の変調に違和感を覚えたころには、臓器はかなりのダメージを追っている場合が多いです。
睡眠時無呼吸症候群と突然死
重度の睡眠時無呼吸症候群では、心筋梗塞や心室性不正脈などの病気を合併し、突然死の頻度が高まることもわかっています。
これは、睡眠中に何度も無呼吸に陥り、低酸素血症になって、心臓に大きな負担をかけたことが原因と考えられています。
たかが、いびきと軽視することなく、いびきは体からの一つのサインという認識をもち、睡眠時無呼吸症候群と向き合いましょう。
睡眠時無呼吸症候群の検査診断
盛岡市で「いびき」の検査・治療は当院へ
医療機関を受診する際のポイント
病気の相談ができる診療科
睡眠時無呼吸症候群は、内科・呼吸器科・循環器科、耳鼻咽喉科、精神神経科など、さまざまな診療科に相談できます。
選ぶポイントとして、いびきの他に気になる症状がある場合、その症状の専門に相談するという方法があげられます。
当院は主に循環器を取り扱っておりますので、前述した通り心臓や血管に関する病気を専門とします。血圧が高かったり、不整脈等の症状に不安を抱えていたりする方は、当院のいびき外来を受診ください。
実施する問診と検査のながれ
まずは問診によって、
- 自覚症状や日中の眠気の程度
- 生活習慣や基礎疾患の有無
- 眠気尺度評価(ESS)
を実施します。
また、他の病気と判別をするためのスクリーニング検査を行います。
次に、睡眠時無呼吸症候群の診断をするために簡易式検査を行います。
これは簡易式ポリソムノグラフィー(PSG)とよばれる検査で、いびきや呼吸をご自宅で簡単にチェックできる検査です。
その結果から、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合は、病気の確定と重症度を診断するための精密検査を実施します。
精密検査には、
- ポリソムノグラフィー(PSG)
- 睡眠潜時反復検査(MSLT)
とよばれるものがあります。
以上の結果を総合的に診断し、治療方針の決定を行います。
当院では、
- 簡易式ポリソムノグラフィー(PSG)
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
を実施しています。
※ 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)とは
PSG検査は、各生体活動を一晩にわたって測定する検査です。
2回目以降は、オンライン診療にも対応しています。
睡眠時無呼吸症候群の治療
基本治療は生活習慣の改善
まずはお体の状態に合わせて、医師や栄養士による運動ブログラム(運動療法)や栄養指導(食事療法)を実施します。
睡眠時無呼吸症候群の大きな要因の1つに、肥満症があげられます。運動と食事を見直すことで、肥満の解消に努めます。
体重コントロールが困難を極めるという点も、睡眠時無呼吸症候群の症状の1つとしてあげられます。
適切な治療を受けながら、継続的に生活習慣の改善が必要です。
食事療法
栄養バランスの取れた食事を実施し、カロリー過多を防ぎ、肥満を解消します。
運動療法
無理のない範囲で継続できる有酸素運動(ウォーキングなど)を、日常習慣として取り入れます。
そのほか
- 禁酒、節酒
→過度な飲酒は、内臓脂肪増加の要因となり、いびきや口呼吸、鼻詰まりを誘発します。 - 禁煙
→タバコによって上気道に慢性的な炎症が起こります。禁煙すると効果的です。 - 不眠症対策
→不眠症の方が服用される睡眠薬や精神安定剤は、無呼吸を誘発する場合があるため、服用を止めます。
すでに睡眠時無呼吸症候群が発症している場合
良質な睡眠がとれない状態のため、運動や食事制限だけでは痩せにくい傾向にあります。
さらに症状が悪化した際は、CPAP治療など別の治療法へと移行します。
CPAP療法/シーパップ療法
睡眠時無呼吸症候群の患者が最も多く適用されている一般的な治療法が、CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)です。
CPAPは空気を送り込むための装置です。専用のマスクを鼻または鼻と口を覆うように取り付け、この装置からホース、マスクを介して一定圧力の空気を常時体内へ送り込みます。
患者さんに就寝時、この装置をつけていただくことで、無呼吸状態を防いでいきます。
適切にCPAP療法を続けることで、快適な睡眠をとれるようになるだけではなく、睡眠時無呼吸症候群によって引き起こされる合併症の発症や悪化も防ぐことができます。
CPAP療法の注意
この治療で重要なのは、長期的に継続してCPAPを使用することです。
効果に個人差はありますが、一般的には装着開始から3ヶ月程度で、実感される方が多いです。
中には装着後、すぐに安眠できたというケースもあります。
軽症の患者さんの場合、CPAP治療を行うことで、体重減少や鼻呼吸ができるようになり、CPAPを卒業していく方も多いです。
逆に、すぐに効果が表れないからといって諦めてしまったり、毎晩の装着が面倒になって自己判断で注視してしまったりすると、さらに症状は悪化します。注意しましょう。
治療開始から月1回程度は定期受診をしていただき、CPAPの不具合や装置状態の確認、データによる治療効果の確認を実施します。
その際に、不安なことや気になることは遠慮なくご相談ください。
検査・治療の費用
睡眠時無呼吸症候群の検査には、健康保険が適用されます。
検査費用の目安
患者さんの自己負担額は、保険負担額によって異なりますが、
- 簡易検査:3,000円前後(3割負担)
- 終夜睡眠ポリグラフ検査:13,000円前後(3割負担)
以上が検査および治療費の目安となります。
CPAP療法
1ヶ月の機器レンタル費を含めて、4,500円前後(3割負担)です。
良質な睡眠をとるための生活習慣
日々の生活の見直しを図る
睡眠は単に、体の休息を得るためだけのものではありません。良質な睡眠をとることで、脳と神経は疲労回復し、細胞の新陳代謝は活性化します。また、老廃物の除去や免疫力の増強、成長ホルモンの正常な分泌など、私たちの生命活動には欠かせない重要な役割を果たしてくれます。
逆に、十分な睡眠時間を取らず、良質な睡眠を確保できないと、体はこれらの活動を十分にこなせなくなっていきます。
良質な睡眠をとるためには、寝る前の行動はもちろん、日中の生活も見直しが必要です。
良質な睡眠をとるための1日の生活習慣
- 起きる時間を規則的にする
- 朝起きたら、太陽の光を浴びる
- 日常に適度な運動を取り入れる
- 夕食は寝る2時間前に済ませる
- 夜は極力、人工的な光(ブルーライトなど)を浴びない